つれづれ

こころにうつりゆくよしなしごとをつづります

vol. 6 2008年夏イギリス旅行(1)

 2008年7月、約3週間のイギリス旅行に行きました。今回の大きな目的は二つの短期コースに参加することです。そのコースでの体験と、その合間に訪れた様々な地について報告します。

1. 7月10日-14日:West Dean College
(1) West Dean College について
 10日夕方にロンドンに到着、直接最初の目的地であるウェストディーンカレッジWest Dean Collegeに向かいました。イギリス南部チチェスターChichesterからバスで10分ほどです。2年半の留学以外に観光でも何度も訪れているイギリスですが、何故か南部にはあまりご縁がなくて、滞在するのがこれが初めてです。 
 West Deanは工芸や建築、園芸等の短期講座を行う他、陶磁器修復等の学位のコースも開講している私立学校です。19世紀のお城をカレッジとして使用していて、受講者はその中に宿泊することができます。ステンドグラスの窓やランプもあってとても素敵です。カレッジのサイトで内部の画像が見られますので、興味のある方はぜひご覧ください。
 カレッジに隣接して庭園もあります。規模は大きくはありませんが、四角で区切られたノットガーデンやパーゴラなどがあって、心地よい散歩ができました。牧草地にはたくさんの羊がいましたが、毛を刈られたばかりのようで、痩せていて寒そうに見えました。
 私はツインルームを一人で使用しました。共用のお風呂はバスタブにお湯と水が出る蛇口が二つついているだけ、つまりシャワーがありません。シャワーがないから当然シャワーカーテンもありません。リンカンで住んでいた家のバスも同じだったので驚きはしませんでしたが、久しぶりに日本ではありえないスタイルのバスルームを見て「ああ、イギリスに来たんだなあ」という感慨にふけりました。
 このシャワーのないお風呂の使用法ですが、バスフォームを泡立てたお湯に浸かった後、そのままバスタオルで泡のついた体を拭くというのが一般的なようです。泡を流さないの?!と日本人としてはビックリしますがあまり気にしないようです。日本人に聞くと皆さんそれぞれに工夫をしています。留学時代の私の作法はキッチン用のボウルを洗面器の替わりにして、上がり湯を汲んで髪や体を洗い流していました。今回はそんな用意はしてこなかったので、やむなくペットボトルで代用しました。なんとも情けない入浴の光景ですが、バスタブが棺おけ並みに大きかったので、ゆっくりと浸かれてそれはそれで良かったです。
 ちなみに多くのイギリス人は食器も洗剤をいれた桶に付け置きするだけで「すすぎ」をしません。泡をつけたままで自然乾燥させるかふきんで拭いてしまいます。このお風呂と食器の二つの「泡」問題は、イギリスに住む日本人の「あるある」となっている気がします。


(2) Chichester について
 コースは11日(金)夜からだったので、11日の日中はカレッジ周辺の散策とチチェスター観光をしました。West Deanの建物と同様の小さな石を並べたような外壁の家が多く見られます。南部の特徴なのかもしれません。大聖堂の前でバスを降りました。チチェスター大聖堂は規模としては大きくはありませんが、緑青の屋根が美しく内部のステンドグラスも見応えがありました。小さいものですが、シャガールのステンドグラスがあったのも驚きました。
 町は典型的なイギリスの小都市という感じです。目抜き通りに全国チェーンのスーパーや薬局、専門店が並びます。イギリスはどこへ行ってもチェーンのお店があり旅行者としては助かるのですが、一方でどこに行っても同じような景色で「その町らしさ」が次第に薄れていってしまうのは少し寂しい気がします。ただ、中心市街地に人気店があって常に賑わっているというのは、シャッター通りの多い日本の地方都市に比べたらずっと良いかなとも思います。地元の商店も少ないながらも営業していて、共存共栄になっているのかもしれません。
 セールのシーズンのためかハイストリートは結構にぎわっていて、私も日用品など今後使うであろうものを一通り買い揃えました。


(3) フュージングのコースについて
 12日(金の夕食時間からコースが始まります。コースには3食の食事がついています。イギリスの大学でこんな美味しい食事がいただけるとは・・・と軽く感動するほど楽しめました。
 食事後のセッションでは講師と生徒がそれぞれ自己紹介し、フュージングの技法や材料についての説明を受けました。生徒は全員で7名、それぞれプロやアマチュアとして何らかの工芸の経験者ですがフュージングは初体験です。私も修復の勉強の一環として少し経験したり、自分の電気炉で遊んでみたことはありますが、先生について勉強するのは初めてです。
 この晩は、講師の先生が用意したフュージング用のガラスのかけらを組み合わせて各自が簡単なオブジェを制作し、第1回目の焼成を行いました。フュージングは焼きあがるのに時間が掛かるため、夜に電気炉のスイッチを入れて、翌日の午後に作品を取り出すのです。下の左の写真がカレッジにある電気炉です。蓋の裏側に張り巡らされているのが電熱線で、ここから炉全体に熱がまわります。この電気炉はとても大きいため、この画像のように各棚板の高さを変えることによって一度の焼成で異なる温度の結果を得られます。高い棚ほど電熱線に近いため熱が高くなりガラスがより溶けて変形します。下の方の段に置いたガラスは比較的熱の影響を受けないため、原型をより止めます。全ての作業が終了したのは10時過ぎでした。


    
 

 翌朝はガラスカットが初めての人たちのために、カットの練習から入りました。私はすでにこれは習得しているため、第2回目の焼成に入れる作品の制作を始めました。上記中央の先生が持参した作品例や他の生徒さんたちの作るものがとても個性的で面白く、とても刺激を受けます。イギリスの人は割りと抽象的でモダンなデザインが好みのようで、その形や色の組み合わせが私にはとても新鮮です。それらを見るだけでも、ここに来てよかったと思えました。私は作品例にあるような、小さなオブジェを組み合わせたプレートを作ろうと思い、4cm×4cmの小さなオブジェをいくつか作りました。夕方にはそれらを電気炉に入れて、第2回目の焼成を行いました。
 夕食後のセッションはスライドで講師の過去の作品を見せてもらいました。講師のAlex Robinsonは大学で美術史を学んだ後、成人学級でステンドグラスを学んだのをきっかけに大学院に入り直してガラス工芸を学んだという女性です。個人宅のなじみやすいデザインのステンドグラス窓からフュージングやサンドブラストなどの技法を取り入れたとても斬新な作品まで、様々な作品を生み出しています。年齢も院に入り直した時期なども私と近いものがあり、それだけに彼女の作品を見るのはとても刺激的でした。本格的にガラス工芸のプロとして活躍するようになってから10年足らずでここまでできるというのを見て、我が身を反省したりもしました。もちろん才能の差もありますが、才能だけではなしえない根気や努力など、学ばなければならないなあとしみじみと感じながらその晩は眠りにつきました。


 
翌14日(日)はコースの最終日です。午前中はまだ前日に焼成したガラスが冷め切っておらず電気炉から取り出せないため、電気炉での温度管理などについての説明を受けたり、その日の午後に行う3回目の焼成のための準備をしました。私は夕方にはロンドンに行くことになっていたため3回目の焼成に参加できず、ちょっと残念でした。午後になり電気炉からガラスを取り出しました。以下がその作品です。左上のプレートは、8個のオブジェと下の透明のプレートはまだ接着していません。接着させるためにはもう一度電気炉で焼く必要があり、それは帰国してからの課題となりました。帰国時に手荷物に入れて持ち帰ることから小さいものしか作れませんでしたが、それでもいろいろな素材やテクニックを試してみて、なかなか有意義に過ごせました。

BACK NUMBERはこちらから…

vol. 1 ステンドグラスの基礎知識(1)
vol. 2 ステンドグラスの基礎知識(2)
vol. 3 イギリスステンドグラス紀行(1)
vol. 4 イギリスステンドグラス紀行(2)

vol. 5 アートグラスショー見物記

ご感想・ご質問はこちらからどうぞ
この欄で取り上げるトピックのリクエストも大歓迎です

メール