vol. 2 ステンドグラスの基礎知識(2) 

 1. ガラスとは?
 ガラスは、ケイ砂(シリカ)を1300〜1500℃で熱し、溶かし固めたものです。ガラスには一定の融点がなく、熱すると徐々に柔らかく粘性が低くなっていき、冷却したときには結晶とならずに液体状態のまま粘性が高くなって固まった状態になっています。
 シリカはそれだけでは1700度以上の高温でないと溶けないため、通常は他の物質を混ぜて融点を下げます。ちなみに黒曜石は、マグマの熱によって溶解し、固まった天然のガラスで、古代人はこれを鏃などに使用していました。
 混合物によって、耐熱ガラスになったり強化ガラスになったりします。
 ガラスの色は、金属を混ぜ合わせることによって得られます。

(2015年追記)2015年1月に京都大学の研究チームが「ガラスが固体であることを示す有力な証拠」を発見したというニュースがありました。ガラスが固体か液体かの議論はまだ続いているようです。

2. ガラスの起源
 ガラスは紀元前3000年頃から作られ始めたといわれています。ヨーロッパで広く知られている伝説では、フェニキアのある海岸で、一人の若者が焚き火をしているときに偶然砂が灰と混ざり、溶けてガラスになった、というのがあります。もちろんこれは科学的には信憑性は薄いのですが、ロマンチックに思えるのか、ガラスというとよく引き合いに出されます。それはさておき、紀元前1000年代にはすでにエジプトなどで、熱したガラスを型に流し込む方法で、ガラスが製造されていました。

3. 板ガラスの作り方
 現在ステンドグラスに用いられる板ガラスの製法には、主に二通りあります。ひとつは吹きガラスから作るもの、そしてもうひとつはローラーで平らにするものです。

3.1 クラウングラス
 吹きガラスから得られる板ガラスにはクラウングラス(スパングラス)とマフ・グラス(円筒グラス)があります。クラウングラスを作るには、吹いて風船状に膨らんだガラスにポンテと呼ばれる鉄の棒をつけてから吹き竿を切り離し、ポンテをすばやく回転させながらヘラで切り口を広げていきます。
 クラウングラスは円形で、波紋状の筋が表面につくこと、中心部と端のほうとで厚みに差があること、中心にポンテを切り離した後のコブが残ることが特徴です。ちなみにこのコブを英語でBull's eye(牛の目)と呼びます。現在ではほとんど作られなくなったクラウングラスですが、ヨーロッパのお城や教会に行くと、この「牛の目」のくっきりと残るガラスで組まれた古い窓に遭遇することがあります。 


3.2 マフグラス(円筒グラス)
 
マフグラスは、吹いたガラスを円筒状に形成し、縦に切り込みを入れます。それを熱した炉の中で平らに開いて板ガラスにするのです。マフグラスの特徴は、円筒を開いていく過程でガラス中の気泡が引っ張られるので、気泡が細長い形をしていることです。
 吹きガラスから作られるこれらのガラスは、伝統的な技法なのでアンティークガラスとも呼ばれています。「アンティーク」というとまるで古い時代につくられたガラスのようですが、ステンドグラスの世界でいう「アンティークガラス」は「古い技法で作られたガラス」のことなのです。


3.3 その他の方法
 吹きガラスから作られる板ガラスは、すべての行程を手作業で行うため熟練の職人の技が必要で大量生産ができないため非常に高価です。それに代わって一般によく使われるのが、ローラーで伸ばした板ガラスで、マシーンロールと呼ばれます。
 この方法では、熱して柔らかくなったガラスをローラーに掛けて平らな板ガラスを作ります。数色のガラスをざっと台の上で混ぜると、色が混ざり合ってマーブル模様になって現れます。すべての過程を機械で行うこともあれば、混ぜるのを人の手で行うこともあります。
 ランプや雑貨に用いられる乳白色のマーブル模様のあるガラスは、このようにして作られます。
 写真はアメリカの大手ステンドグラス用ガラスメーカー「ヤカゲニー」工場でのマシーンロールガラスの制作風景。2001年に同社を訪れた際に撮影しました。

4. ガラスの魅力
 以上、ステンドグラスを制作するにあたってもっとも重要な構成要素であるガラスについてお話いたしました。
 ちなみに一般に用いられる平らな工業用ガラスは、並板(フロート)ガラスと呼ばれます。フロートとは英語で「浮かぶ」という意味で、特殊な液体の上に溶けたガラスを流すと、油に浮く水のように、ガラスが液体の上に浮かびます。こうして大きくて平らなガラスを作るわけで、この製法は20世紀半ばにイギリスのガラスメーカー、ピルキントン社が開発しました。
 ちなみにピルキントン社は2006年に日本の日本板硝子に買収されました。リバプールの近くのセントヘレンズという町にある本社で、私の留学中に学会の研究発表が行われたことがあり訪れたことがありますが、トイレの洗面台がガラス製でとてもユニークかつスタイリッシュで、女性参加者の絶賛を浴びていたのが印象に残っています。

 普通の建築や家具だったら、そこにはめ込まれているガラスはただの建材でしかありません。しかしステンドグラスに用いられるガラスはそれ自体が人の創意工夫から生まれた芸術品なのです。
 ステンドグラスにおけるガラスの魅力を一言で表現することはできません。たくさんの色が調和し影響しあいながら生み出すハーモニー、硬質の素材でありながら感じられる手作りの温かみ、反射光で見たときと透過光で見たときの印象の違い…等々、ガラスを手に取る度、それを作品にしていく度に新しい感動が起こります。
 私たち作家の使命は、先人の努力により改良されてきたガラスという素材に敬意を持ち、その魅力を最大限に引き出すべくデザインや配色に工夫を重ねることだと思います。
 

参考文献:ローレンス・リー他著、黒江光彦訳『ステンドグラス』朝倉書店、1980年
     
伊藤哲雄他著『生活化学』東京教学社、1981年

お読みくださいましてありがとうございました。次回もお楽しみに。

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